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2023年4月より、伊豆大島ジオパーク推進委員会事務局に、伊藤舜さんが学芸員(ジオパーク専門員)として仲間入りしました! これまで「進化生態学」、特にカタツムリ専門の研究者として活躍されてきた伊藤さん、今回はそんな伊藤さんの素顔や学芸員としての目標、火山博物館リニューアルへの展望など、熱い想いをお届けします!





まずはじめに自己紹介も兼ねて、伊藤さんの子ども頃の様子や特技、生き物とのエピソードなどをお聞かせください。



【伊藤専門員】私は埼玉県川口市の出身で、市内でも比較的自然が豊かな環境で育ってきました。小学生の頃は、弟や友人を誘って虫や魚獲りに出掛ける毎日を過ごしていましたね。中学校では野球部でしたが、練習の合間を見つけては、ザリガニや魚釣りへ繰り出す日々。中学までは虫や魚が中心でしたが、高校から大学にかけては鳥の観察にはまっていました。いわゆるバードウォッチングです。


夢中になったきっかけは、鳥が自分の頭上を旋回する姿を見たからで、その鳥はノスリという鷹の仲間でした。まるで腹巻をしているような鳥です。見た瞬間にすっかり引き込まれてしまって、翌日から鳥を観察するようになりました。まさに鳥に目覚めたという感じです 笑。当時はすごく珍しい鳥だと思っていましたが、調べるうちにさほど珍しくもないという事が分かりました。私は冬に大島を訪れたことがないので分かりませんが、大島にも渡ってきているかな? 今年、見つけられるか楽しみです!



思い返してみると、子どもから大人へ成長するにつれ、観察対象は変化してきましたが、「生き物を見ることが好き」という部分はずっと変わっていないですね。ちなみに、特技はカタツムリを見つけることです。特に木の上にいるカタツムリの早探しには、結構自信があって、車の中からでも見つけ出せます!




生き物は、とても身近な存在だったんですね。生物研究の道へ進もうと決意したきっかけは何だったんですか?



【伊藤専門員】きっかけは、大学時代に参加した新潟県粟島で行われたカタツムリの実習です。私の生物学の師匠、東邦大学准教授小沼順二先生の授業で、「カタツムリはなぜこの形なのか?」「なぜこの大きさなのか?」等、カタツムリの進化に関する実習に参加しました。それまでとは違った、とにかく考えさせられる内容で、生物の進化って面白いな、カタツムリを研究してみたいなと思わされた出来事でした。
私自身、自分の人生を変える実習だったと感じています。実はこれに参加した10数名の内、私を含めて3人が、自分と同じように博士課程に進み、現在も生物に関わる研究を続けています。それ程この時の経験はインパクトが大きく、特別な魅力があったのではないかと、私は思っています。





研究を始めて、気づいたことや驚いたことはありますか?



【伊藤専門員】伊豆諸島および伊豆半島は、世界で一番面白い地域だということに気がつきました。元々離れていた島が本土に衝突してできた伊豆半島、衝突する前の状態で存在する伊豆諸島、加えてそれらの島々が本土から近い位置に存在していること。これらの条件が揃っている場所はなかなかありません。伊豆諸島には、最近も噴火が起こり生物進化の初期段階に位置する伊豆大島や三宅島、最新の噴火から長い時間が経過している御蔵島等があります。生物学の視点で、そこで暮らす生物の進化を歴史軸で見ていくことはできませんが、ある地点を切り取って、一つの時間軸で見ることができます。これが伊豆諸島・伊豆半島の面白さだと思います。そんなことができるのは世界中でここしかありません。




世界中でここだけですか!?



【伊藤専門員】そうなんです! 例えば、ヒマラヤ山脈なども大陸の衝突により誕生したものですが、はるか遠い昔の出来事で、付近には衝突前の島などがありません。また過去の痕跡もあまり残されていないため、その瞬間の生物しか観察することができません。一方で、生物学研究が進んでいる「ガラパゴス諸島」や「小笠原諸島」ですが、島と本土が衝突するような状況はそもそもありません。独立した島に生息する生物の現状を調査することは多くの場所でできますが、一人の人間が生物の進化過程や歴史を、継続して調査するには限界があります。
しかし、伊豆諸島および伊豆半島を調査対象とした場合、島の生態系の「過去・現在・未来」の全体を包括して確認することが可能です。そんなことができるなんて、本当にすごいことです! これまであまり注目されていない分、今後の研究で解き明かされることも多いと思います。このことに気付いてから、私はきっと伊豆諸島および伊豆半島の時代が来ると信じていて、自分自身がこの地域に魅了され続けているんですよね。まさにジオパークの地学的要素があってこそ生まれる物語、大変興味深いです。




伊豆大島に生息する生物について、その特徴を一言でいうと?



【伊藤専門員】「本土と同じ普通種、だけどちょっと違う」のが特徴だと思います。これが大島の面白いところですね。その場所にいる時間が長い生物は、全く異なる別の種、いわゆる固有種となります。しかし大島は最近も噴火している若い島であり、生物が進化するまでの時間を経ていない段階です。でも、普通種と全く同じというわけではなく、少し異なる部分が出はじめています。それが大島の生物の特徴で、面白いところかなと思いますね。





では大島の歴史や文化等で、気になっている部分はありますか?



【伊藤専門員】「方言」に大変興味があり、これは地域の方と積極的に掘り起こしていきたいテーマです。食べ物にも方言があるように、生物や植物などにも方言があると思います。例えば大島の方言で、かつて土石流は「びゃく」と呼ばれていたそうですね。そういった過去の出来事だったり、大島が6つの村から構成されていたことから、それぞれ独自の方言がありそうだなと感じています。火山博物館リニューアル後、展示等でこの場所にどんなできごと・植物・生物が存在し、どのような方言があったのか、紹介出来たら面白そうだなと考えています。




ところで、伊藤さんご自身についてもう少しお聞かせください。休日の過ごし方や好きな食べ物、尊敬する方など教えていただけますか?



【伊藤専門員】休日は、主に調査へ出掛けています。カタツムリがたくさんいるので、岡田と北の山がお気に入りです。現地へは週1のペースで通っていて、今日も仕事終わりに行こうと思っています 笑。今、岡田の八幡神社と北の山の愛宕山麓で、カタツムリの研究を続けていています。家に帰ってからは、論文を作成しています。地道な作業の繰り返しですし、完成までは大変な部分も多くありますが、論文を書くことが好きなんですよね。


▼伊藤専門員の論文が掲載された学会誌
Predator presence and recent climatic warming raise body temperatures of island lizards

Evolutionary history of inshore oceanic island land snails diversified in shell colour






好きな食べ物は、ラーメンです! 以前は休日など、出先で美味しそうなラーメン屋を見つけては、食べに行ってましたね。みそ・しょうゆ・とんこつ、なんでも好きです! まだ大島では行けていないので、皆さんのお勧めのラーメン屋さんが知りたいですね。

尊敬する人は、今も交流のある先生方なので少し照れくさいですが、小沼順二先生、千葉聡先生、長谷川雅美先生です。小沼先生は、この道へ進むきっかけを与えてくださった方です。卒業後も度々一緒に研究させていただいており、大変お世話になっています。千葉先生は、私の愛読書である「歌うカタツムリ」の著者で、一緒に研究もさせていただいている方です。行き詰まった時、何度でも相談に乗ってくださる、とても頼りになる先生です。そして長谷川先生は、長年伊豆半島から伊豆諸島に関して研究されている方です。とにかく知識が豊富で「○○を探していて…」と話すと、「□□にいたよ!」すぐに回答が来る。何でも知ってるすごい人、なのに気さくに接してくださる、お人柄も素敵な先生です。3名は自分の人生を大きく変え、いつも支えてくださる方々です。心から感謝しておりますし、自分もいつか先生方のような人になれたらと思っています。




ではこれから伊藤さんが目指す学芸員像や、今後やってみたいことについて教えてください



【伊藤専門員】私はこれまで、伊豆諸島にこの地域の面白さが伝わるような博物館ができたら良いなと考えていました。そんな時に火山博物館リニューアルの学芸員募集を知り、こんなチャンスは二度とないと思ってチャレンジしました。大島へ来たばかりですが、まずは地域の方と、積極的に関わりを持っていきたいです。地域の方に教えていただきながら、大島に関する事、大島の良いところを一緒に探し、島の内部から外に向けて、その魅力を発信していける学芸員になりたいです。発信していくことが、自然と伊豆大島ジオパークの普及にも繋がるのかなと思います。そして今後は、ジオパークのネットワークを上手に活用しながら、他ジオパークとも連携し、ジオパークについてより深く学んでいきたいと考えています。




最後に、火山博物館リニューアルの展望についてお聞かせください



【伊藤専門員】火山博物館リニューアルでは、現在豊富に揃えられている岩石等に加え、博物館がさらに充実するような資料を取り入れていけたらと考えています。そのためには地域の方と共に、伊豆大島ジオパークに関わる地域資料や標本の収集を続けていく必要があります。それらを上手に活用していくことで、伊豆大島ジオパークの柱となる、大島の魅力が伝わる拠点施設に出来たら良いなと思います。地域の方とのジオパーク活動や、大島に関して今後新たに明らかになる情報等については、これまでの研究者としての経験を最大限に活かし、論文として外部へ発表できるよう、取りまとめていきます。

同時に、今回の火山博物館リニューアルでは、大島で起こる災害等を想定した対策も考えておく必要があると思います。有事の際、博物館の財産である資料をどのように保存するのか。例えば分散させたり、島外での保管を検討するなど、様々な方法で貴重な文化財や資料をしっかり守っていきたいですね。




貴重なお話をありがとうございました。今後のご活躍、心より期待しております!



【伊藤専門員】ありがとうございます。よろしくおねがいします!

Profile
伊藤 舜(いとう しゅん)
埼玉県出身。東北大学 大学院生命科学研究科 生態発生適応科学専攻 博士後期課程修了。